自己愛の過剰摂取

メンヘラオタクが暇つぶしに何か書きます 

愛の熱量

他者を愛するという感情が分からない。人は当たり前のように他者を好きになり恋に落ちて愛に走る。テレビでも人はそう言うし、漫画でも、小説でも人は他者を愛する。みんなそういうのに、私は他者を愛するという感情の動きを体感したことがない。

 

私の目の前で私を潤んだ眼で見つめてくるこの女は、私を愛しているらしい。彼女の吐くと息の熱さや赤くなった耳、乱れても全く無視されている前髪からも私が彼女に愛されているという感情の動きが見て取れる。その圧倒的な熱量から思わず目をそらす。感情の暴力。私は彼女が怖かった。

 

彼女が私のほほを触る。指すらも熱い。熱量に支配される。指に力が加わり、私は彼女を見つめなければならなくなる。ふいに重ねる唇。私は何もできない。感情の波が、彼女の唇からなだれ込んでくる。必死にもがくしかない。なぜ?もがく必要なんてあるのだろうか。分からない。ただただなだれ込んでくる感情をただ受け止めなければならない。

 

体がどんどん感情に支配されていく。LOVEやら恋やら愛やら言われている、ただ漠然とした強い好意が精神を蝕んでいく。脳みそがどうにかなってしまいそうだ。自分が自分じゃなくなっていくような。けどまったく拒否することはできない。

 

「結衣ってほんと優しいよね」

唇を離したあと、彼女は悲しそうな表情でそう呟いた。私は優しくなんかない。ただ、臆病なだけだ。彼女の気持ちに答えられないくせに、拒絶してしまうのもこわくて、ただ黙って彼女に何もかも押し付けている。

 

「何か言ってよ」

彼女の手が私の頬に触れる。熱い。感情が伝わっていく。私はこんなに想われているのに、答えることが出来ない。唇の中に彼女の唾液を感じる。

 

「………ごめん」

辛うじてそのセリフが口から零れた。けど誰に謝っているんだろうか。気持ちに答えられない彼女へだろうか。それとも何も出来ない不甲斐ない自分へだろうか。何もわからなくなる。感情が、わからない。涙がこぼれる。どうしようもない。

 

「なんであんたが泣くのよ…!」

気づけば2人で泣きあっていた。彼女は私から離れられず、私は彼女を受け入れることも拒否することも出なかった。私が彼女を受け入れることができたらそれが一番いいことなのに、彼女の熱量に自分が答えられる気がしない。自分にそんな価値があるとは思えない。どうなれば正解なんだろうか。今日も2人泣きあって疲れて寝て明日が来るんだと思う。そしたら何気ない日常が始まって、またこの日がくるまでびくびくしながら生きていくんだと思う。いつか答えが出るのだろうか。